イベント情報

日本医学交流協会医療団では、健康や医療に関する
市民向けの公開講座を毎年開催しております。 ぜひご参加下さい。

第13回公開講座 市民健康の集い 特別講演「子どもの食物アレルギー」

 

皮膚を清潔に保ち、微量を摂取する
食物アレルギーへの正しい対処法

 




ここで疑問が生まれます。幼児の食物アレルギーは、離乳食で初めて食べた食物に対しても発症するケースがあり、その時点ですでにアレルゲンに対するIgE抗体が生成されていると考えられるのです。では、どの段階でIgE抗体が生成されたのでしょうか。
これまでは「妊娠中の母親がアレルゲンを除去することで、生まれてくるこどものアレルギー発症を予防できる」「授乳中の母親がアレルゲンを除去することで、乳幼児のアレルギー発症を予防できる」と信じられてきました。しかしこれらの説にはほとんど科学的な根拠はありません。
 近年では、乳幼児の皮膚からアレルゲンが体内に侵入することでIgE抗体が生成され、初めての食べ物に対してもアレルギーが発症することが証明されています。なかでもアトピー性皮膚炎や湿疹などによってバリア機能が破綻した皮膚から、アレルゲンが特に侵入しやすくなることがわかってきています。


つまり皮膚の状態が悪いと食物アレルギーが発症しやく、皮膚を常に清潔に保つことで食物アレルギーの発症も防止できるわけです。
 さらには、「アレルギーマーチ」という言葉で表現されるようなこどもが成長するにしたがって他のさまざまなアレルギー疾患(気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎など)が次々に発症することも、乳幼児の時期に皮膚を清潔にすることで防止できるのかもしれません。今後のさらなる研究に期待しているところです。


私が診た患者さんのなかにも難治性アトピー性皮膚炎に悩む幼児が数多くいますが、お母さんに「正しい体の洗浄方法」と「正しいステロイド軟膏の塗布方法」を指導したところ、ほとんど例外なくきれいに改善しています。皮膚を清潔に保つポイントは、しっかり泡立てた石鹸で全身を洗うこと。湿疹などが強い部分もしっかり洗いましょう。また、ステロイド軟膏を使用する場合は、ケチらず、必要量をしっかりと使うことも大切です。


また、最近よく受ける質問に「離乳食の開始時期を遅らせることで、アレルギーの発症を予防できるって本当?」というものがあります。
これに関して、近年ではアレルギーの予防対策の1つとして「乳児期早期からむしろ積極的に与えていく」という方法が研究されています。きっかけとなったのは、イスラエルの事例です。イスラエルの習慣として、生後4〜5か月の幼児にピーナッツを食べさせる家庭が多いのですが、そうやって育ったイスラエルのこどもが18歳までにピーナッツアレルギーを発症する確率は0.17%。同じイスラエル系の民族でも、幼児がピーナッツを食べる習慣のないイギリスの発症率1.85%よりも、はるかに低い数字になっています。


日本においても2002年の調査で、母乳ではない人工乳を飲んでいない乳幼児は、飲んでいる乳幼児と比べて牛乳のIgE抗体の数値が高いという結果が出ています。さらにその後、日本や海外での研究によって、ピーナッツや鶏卵などの食物を幼児が早期に摂取することで、アレルギーの発症頻度が有位に低下したことが報告されています。
これらの研究を踏まえ、日本小児アレルギー学会では「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」として、以下の点をまとめました。


・対象はアレルギー体質のある児(アトピー性皮膚炎のある児)
・まず皮膚をきれいにする
・生後6ヶ月頃を目安に
・「十分加熱」したものを「微量」から摂取

ちなみにこれらはあくまで「予防」に関する提言であり、すでにアレルギーを発症した幼児の「治療」は対象としていません。



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