イベント情報

日本医学交流協会医療団では、健康や医療に関する
市民向けの公開講座を毎年開催しております。 ぜひご参加下さい。

第11回公開講座 市民健康の集い 特別講演「女性アスリートの食事と栄養管理」

 

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2016年5月22日(日)、北海道立総合体育センター・大講堂にて、第11回市民健康の集い(主催:当団体、株式会社ドクターズプラザ、後援:公益財団法人北海道体育協会、協賛:合同会社スノーベル)が開催されました。
当団体の公開講座は例年都内で行ってきましたが、「地方で頑張っているアスリートや指導者にも知識を届けたい」という思いで、北海道での開催に至りました。
当日は、特別講演の講師として東京家政大学ヒューマンライフ支援センター・准教授の内野美恵先生をお招きし、「女性アスリートの食事と健康管理」についてご講演いただいたほか、北海道リラ・コンサドーレ監督の宗像訓子さんコンサドールズのプロデューサーである金子桂子さんによるトークショーも行われました。

 


 

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内野美恵先生には、過去に健康サポーターえむぞぅくんの漫画(食育編、果物編、野菜編、運動編)も監修いただいています。

 

内野先生:「食事を改善したら試合に勝てますか?」とよく聞かれますが、それは無理です。でも、食を整えることで、体調不良が減って疲れが取れやすくなりケガの治りが早くなるということはあります。そうすると「もう少し頑張ってみようかな」という意欲が続き、可能性が広がります。結果として選手生命が延びると言えます。

 

 

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講演は女性アスリートの歴史の話に始まり、女性アスリートならではの食事の問題へ。
内野先生は、競技の結果を重視するあまり、誤った食生活指導を続けている女性アスリート界の指導者の現状に警鐘を鳴らしています。

 

第二次性徴前に華々しい成績を上げた女子は、これから自分はもっと良い成績を出せるはずだと思っています。
ところが生理がはじまり体が成熟してくると、女性は体脂肪率が増えていきます。そうすると、今まで出していたタイムが出なくなります。
特に新体操やフィギュアスケートなど審美性を問われる競技では、体重は増えてはいけないことを求められます。
また、理解のない指導者が「生理が止まって一人前」などと叱ったりすることがあると、生理がないことがアスリートとして偉いと勘違いしてしまうこともあります。

 

内野先生:摂食障害に陥ると、体は子どもを産むよりまずは自分の命を守ろうとして、生理を止めてしまいます。
女性の骨は女性ホルモンの作用によって骨密度が高くなるため、生理が止まると骨粗しょう症という骨がもろくなる状態が生じてしまうのです。
国立スポーツ科学センターの能勢さやか先生が、10代の女性アスリートにおかえる疲労骨折の割合と生理の状態を調査したところ、
正常月経の場合には疲労骨折は11%なのに対し、生理がない10代のアスリートの疲労骨折は38%という結果が出ました。
もし3か月以上生理がない場合や、15歳でも初潮が来ない場合は産婦人科を受診することをお勧めします。

 

当日は小学校高学年~中学校程度の年齢のジュニア女性アスリートも多数参加されており、先生のお話に真剣なまなざしで聴き入っていました。

 

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栄養のお話では、五大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル)の役割から、かなり具体的な栄養バランスの整え方まで詳しくお話しされていました。

 

内野先生:エネルギーになるのはタンパク質、脂質、炭水化物。体を作るのはタンパク質、脂質、ミネラル。体調を整えるのはビタミン、ミネラル、タンパク質です。
バランスのとれた食事のコツは、食事形態を一汁三菜に整えること。具体的には、ご飯、汁物、主菜(肉、魚)、副菜(野菜)を2~3品で構成します。それに果物と牛乳、乳製品を加えると、栄養の5つのカテゴリー(五大栄養素)がそろった食事、すなわちバランスのとれた食事と考えることができます。

 

内野先生:最近はコンビニに冷凍の果物が置かれるようになり、結構おいしくて値段もそこそこですのでお勧めです。パスタや丼もののような単品メニューを選ぶときも、主食と主菜だけでなく、副菜として野菜が使われているものを選んだり追加したり、ヨーグルトやオレンジジュースを組み合わせるなどして、5つのカテゴリーを意識するようにすると良いでしょう。

 

なるほど!毎回一汁三菜の料理を作るのはちょっとハードでも、コンビニを利用することで気軽にバランスを整えられるようです。
さらに、先生は特にトレーニングの前後の食事について、以下のように続けました。

 

内野先生:トレーニング前におすすめのものは、消化が良くてエネルギーになりやすい炭水化物です。消化に時間がかかる脂質やタンパク質は避けます。オレンジジュースやバナナ、団子とかカステラ、おにぎりなどが良い補食となります。
逆にトレーニングの後は、エネルギーとして炭水化物を素早く補給することと、体をつくるためにタンパク質を補給することが大切です。
炭水化物を多く含む食品にヨーグルトや卵、チーズを含む食品をちょっと足してあげると良いですね。
また、ホットドッグやサンドイッチ、肉まんのような糖質とタンパク質が一緒に取れるものを選択するのもお勧めです。

 

内野先生:炭水化物の中にはゆっくり吸収される炭水化物と、速く吸収される炭水化物があります。状況に応じて使い分けると良いですね。
食事としてしっかり食べる場合は、ごはんの様なゆっくり吸収されるものが良いです。運動直後や、試合と試合の間が30分~1時間という短い間隔しかない場合などは、消化の良いものをコンパクトに取る必要があるので、糖分入りジュースやゼリー飲料など糖分が速く吸収されるものが有効に働きます。

 

また、さらなる競技力の向上を期待してサプリメントを使用するアスリートの例を挙げていました。
内野先生は「サプリメントを使ったことで競技力が向上したという結果について、科学的なエビデンスをもって証明されたケースはない」としながら、次のような調査結果の紹介をしてくださりました。

 

内野先生:国際オリンピック委員会が2000年に実施した調査では、634品目のサプリメントや健康補助食品を調査した内、ドーピングとされる禁止薬物が検出されたケースが14.8%あったと報告されています。いずれも外国製ですが、今はインターネットで個人が各種サプリメントを簡単に入手できてしまうので、選手自身が正しい情報を知っておく必要があります。

 

サプリメントやドーピングについて詳しい情報を得るためには、以下のサイトがオススメだそうです。
サプリメントに関する情報:スポーツ栄養-国立スポーツ科学センター
ドーピングについて:日本アンチ・ドーピング機構

 

このようなお話の他、女性アスリートの歴史など栄養以外のお話もしていただき、内容盛り沢山の90分でした。
内野先生、ありがとうございました!

 


 

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特別講演終了後のトークショーでは、北海道リラ・コンサドーレ監督の宗像訓子さん(写真中央)、コンサドールズのプロデューサーである金子桂子さん(写真左)が登壇。

 

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北海道リラ・コンサドーレは、一般社団法人コンサドーレ北海道スポーツクラブを運営母体とし、15年度に設立されたばかりの女子サッカーチーム。
なでしこリーグ参戦を目指しており、宗像監督はその初代監督です。
金子先生は、北海道コンサドーレ札幌の勝利の女神・ダンスドリルチームのコンサドールズをプロデュースしています。

 

金子先生の司会のもと、宗像監督の現役時代の食生活はもちろん、内野先生から会場の皆さんへこんな質問も。

 

内野先生:サッカーをする上で、食事で重要な栄養素はどの栄養素だと思いますか?

 

これに対し、参加者の方はタンパク質と答えました。
すると…

 

内野先生:アスリートに必要な栄養素というとタンパク質と答える方が多いですが、スポーツ栄養士の視点から言うと糖質(炭水化物)も大切です。
タンパク質も体を動かす上で重要ですが、糖質が体の中でしっかり機能しないと持久力につながりません。
いつ食べた糖質が有効かというと、日中に試合をするなら、その前日の夕食と当日の朝食で食べた糖質です。
また、試合の前で緊張している前日にタンパク質をたくさん取ると、消化不良を起こしてしまうこともあります。

 

これには参加者の皆さんもびっくりされたようで、熱心にメモを取っていました。

 

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質疑応答では、参加者の方から積極的に挙手がありました。

 

参加者:いつもは運動をしているのですが、運動しない日の食事はどうしたらいいですか?

内野先生:ごはんの量で調整すればいいと思います。練習のある日は2杯、練習のない日は1杯など、調整するのが1番良いと思います。

参加者:学校に持っていくお弁当の中身は何が1番いいですか?

内野先生:お弁当の半分はご飯、残りの半分のうちの三分の一がタンパク質、三分の二が野菜や果物であれば、どんなものを持って行ってもバランス的にはいいと思います。ただ、1食だけでは評価できないので、朝昼晩の食事をトータルでバランスをとり、同じ食材や調理方法が続かないようにすると良いと思います。

 

…などなど。他にも野菜の代わりに野菜ジュースを飲んでもいいのかどうか、サプリメントについてなど、身近な食事についての質問が多数ありました。
かなり具体的にお話いただいたので、さっそく今日から実践できます。
宗像監督、金子先生、内野先生、ありがとうございました!

 

最後に、今回セミナーにご参加いただいた方の感想をいくつかご紹介します。

 

●最近は外食が多くなったので、付け合わせ等の取り方が理解できました。

●自分はカロリーをとらなければ痩せると思っていたけど、極端にそれに力を入れすぎては痩せにくくなるということを知れたので栄養バランスを気を付けてみようと思った。
●社会人は仕事をした後のトレーニングで夕食の時間ととる食べ物が1つのポイントになると感じているので、その点を聞けたこと。また、学生の選手が見た目だけのダイエットにならないように、今日の講演で聞けてとてもよかったです。
●わかっていたようでわかっていなかったことがたくさんあった。食事のバランスのこともそうだけど、おにぎりの具の話などもとても興味深いもので、今まで何も考えずにとっていた食事などもこれからは考えながらとって行かなければならないと思いました。すごくわかりやすいお話でとても楽しかったです。
●補食をとるときにも運動の前なのか後なのかで取ると良い栄養素が違うことを知って、これからの補食のとり方を見直したいと思います。
●すごく気になっていて今まで知らなかった食事をとる時間帯や、夜遅くなってしまった場合の食事内容を知ることができたのでとてもタメになりました。ありがとうございました。

 

皆さん、それぞれ楽しんでいただけたようです。
ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!
次回の公開講座「第12回 市民健康の集い」は2017年に開催予定です。お楽しみに!

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